注目を集めるアカウントベースドマーケティング(ABM)の全体像

FORCAS2017年5月26日

ここ数年、B2Bマーケティングの分野では、ABM(Account Based Marketing)が話題となり、普及が進んでいます。ABMが定義されたのは2003年に遡りますが、本格に注目度が高まったのは、米国では2014年、日本では2015年から2016年にかけてであり、まだまだ新しい概念ため、具体的な内容についてはよくわからない、と言った方も多いのではないでしょうか。

これまでもB2Bマーケティングの世界ではさまざまなマーケティングソリューションが欧米を発端に導入されてきました。MA(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)、CRM(Client Relationship Management)などがその中でも特に知名度が高く、実際に日本企業でも多くの企業が取り入れています。しかし、そのそれぞれのマーケティングソリューションについて違いを正しく理解している人は少ないのが現状で、そんな中でABMの説明を受けたところでまた新しいマーケティングソリューションかという印象を与える以上に理解を深めるのは難しいでしょう。

そこで本記事では、ABMについて正しく理解するために、ABMとは何なのかについて、その定義から、MA、SFA、CRMとの関係性も含めたB2Bマーケティングにおける位置付け、メリット、企業との相性等について体系的に説明していきます。

現在、庭山一郎氏の「究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)、2016、日経BP社 」が唯一のABMについての日本語の書籍であり、ABMを学ぶにあたっての決定版とも言える本です。

このブログの記事の多くも、庭山一郎氏の許諾を得て、書籍の内容を引用させてもらっています。このブログの記事を出発点として、ABMについてより詳しく学びたい方は、ぜひ、書籍を手にとっていただければと思います。

ABMは日本企業が得意としてボトムアップ型の顧客アプローチと親和性が高いと言われており、日本市場への浸透が期待されているマーケティングソリューションです。うまく使いこなすことができればさらなる営業効率の向上も狙うことができますが、その前に正しく理解し、そして自身の会社との相性を慎重に検討する必要があります。この記事はそういった方に向けて執筆されたものあり、日本企業のABMの導入検討の一助になれればと思っています。

アカウントベースドマーケティング(ABM)の定義

庭山氏の著書によると、ABMが初めて定義されたのは2003年で、米国のB2B マーケティング団体でありアドバイザリー業務も行うITSMA(IT Services Marketing Association)により、以下のように定義されました。(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティング)』2016、日経BP社、18)

Account Based Marketing provides a vital strategy for companies that want to create sustainable growth and profitability within their most important client accounts. ABM focuses explicitly on individual client accounts and their needs. More importantly, it is a collaborative approach that engages sales, marketing, delivery, and key executives toward achieving the client’s business goals. All of these attributes contribute to the success of ABM in practice.

ここでは、この定義の和訳は行いませんが、国内外のマーケティング会社の定義等も踏まえて、簡潔に日本語で定義をするのであれば、

ABM(Account Based Marketing)とは、定義されたターゲットアカウントを元に戦略を逆算するマーケティングである。

と定義できます。

ターゲットとするアカウント(顧客企業)を定義し、顧客の担当者の個人情報をターゲットアカウントに紐つけ、ターゲットアカウントを軸にして、マーケティング部門や営業部門、役員、その他部署が連携することで、戦略的・組織的なマーケティング施策を行い、ターゲットアカウントからの収益の最大化を目指していく、というものです。

ABMは具体的に何を行うのか、B2Bマーケティングにおける位置付け

セールスファネル
マーケティングファネル, MQL: Marketing Qualified Lead, SQL: Sales Qualified Lead

上の図は、マーケティングファネルという、B2Bマーケティングのモデルに、担当部署や用いられるソリューションを併記したものです。

ABMは、MAによるリードジェネレーション、リードナーチャリングにアカウントを軸とした新しい枠組みを提供し、MAをより効果的なものにする役割を担います。具体的には、これまでにMA、SFA、CRMから得られた顧客情報や外部から取得するデータをアカウントを軸にMAに統合します。そのことで、MAにおける見込み客を個人単位でなく、顧客企業単位を軸として見ることが可能になります。見込み客をアカウントごとにグループ分けすることで、アカウント毎に戦略的にパーソナライズされたアプローチを行うことが可能になるとともに、これまでは個人単位にばらばらで行っていたアプローチがより組織的なアプローチとなり、顧客に対する面でのアプローチが可能になります。また、リードナーチャリングの段階でも、そのアカウントの購買ステージに応じたコンテンツマネジメントを行うことが可能になり、アカウント単位でのMAの運用が可能になります。

従来のB2Bマーケティングと何が異なるのか

従来のB2Bマーケティングでは、できるだけ多くのリード(個人)にアプローチを行い、ファネルの下へと導いていくことが行われていました。これは、少し乱暴な言い方をすれば、営業の意向を特に踏まえることなく半ば無差別的にMQL(Marketing Qualified Lead)を創出しているとも言えます。結果として、営業の想定しないMQLも多く創出されるため、MQLを営業がフォローしないという事態が生じてしまいます。

一方、ABMでは、まず最初に営業の意向を踏まえた上でターゲットアカウントを定義します。そこからターゲットにする個人を洗い出し、ファネルの下方へと誘導します。そのため、MQLとして営業に渡される案件が、営業によってフォローされないという事態はほとんどのケースで避けられます。

ABMを取り入れるメリット

ABMを取り入れるメリットとして、庭山氏の著書において紹介されているもののうち、いくつかをご紹介します。(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティング)』2016、日経BP社、26-31)

マーケティング部門と営業部門の連携

これは既に本記事でも記載済みですが、マーケティング部門が営業部門の視点から顧客のターゲティングを行うので、MQLの営業のフォロー率が高まります。また、このことにより、B2B企業でしばしば起こるマーケティング部門と営業部門の関係悪化、例えば「営業部門はMQLをまともにフォローしてくれない」「マーケティング部門からくる案件は質が悪いものが多い」、等が回避されることになります。

無駄がなくなり、ROMIの上昇が期待できる

ABMではターゲットを明確に定義します。そのため、マーケティング担当者は、ターゲットに最適化したマーケティング施策を重点的に実施することができ、リソースの無駄が省かれます。

さらに、ターゲットは営業の意見を取り入れて決められています。このことは、コストを支払ってマーケティングを行い創出したMQLが営業によって無視されなくなり、かつ、よりしっかりとフォローされることを意味します。結果としてマーケティングコストに対する収益(ROMI:Return on Marketing Investment)の上昇が期待できます。

既存顧客からの収益増と新規顧客の開拓

ABMは、特にこれまでに豊富なデータが蓄積されている既存顧客に対しては、短期間で成果が上がることが見込めます。一般的に、大口の既存顧客は、会社にとってより高い収益をもたらす可能性が高いとされています。ABMを用いることで、顧客と面で繋がることが可能になる事は、既存の重要な大口顧客に対するグリップを強化、新規案件創出の増加、ビジネスチャンスの見逃し防止に貢献します。

また、未取引先に関しても、ABMは効果を発揮します。未取引先でも社内には名刺等をはじめとした相応のコンタクト先が存在するはずです。ABMにおけるターゲットと定義し、戦略的・組織的にアプローチを行うことによって、関係強化やニーズ把握の進展を通じて新規顧客の開拓が可能となるでしょう。

過去の投資の有効活用

現在、多くのB2B企業ではMA の導入が進んでいます。一方、繰り返しになりますが、MQLが増えたのは良いが、営業部門がフォローしてくれないという問題を抱えている企業が多いのも実情です。

このような状況の解決にABMが力を発揮する点は既に説明した通りですが、これまでのMAの運用によって蓄積されたデータ、コンテンツマネジメントのノウハウはABM実践の上で非常に価値の高いものとなります。これは、CRMやSFAに関しても同様で、これらのシステム運用を通じて蓄積されたデータはABM運用のための個人情報のソースとして非常に有用です。すなわち、ABM導入によって、既に導入し運用してきたマーケティングソリューションの産物を最大限利用できるとともに、これまで効果の出なかったMAの有効活用がようやく可能になります。

ABMを導入すべき企業とは

ABMとの相性や、ABMを運用するための前提条件等を踏まえると、ABMを導入すべき企業、あるいはABM導入によって効果を上げられる企業は、以下の特徴・要件を満たす企業になると、庭山氏の著書の中で説明されています。(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティング)』2016、日経BP社、50-53・93-96)

商品・サービスが複数ある

複数の商品やサービスを有するB2B企業の場合、それらを扱う営業部門、事業部門は独立して存在し、活動していることが多いと思われます。このような企業の場合、マーケティング活動も製品やサービスごとに行っている場合が多く、アカウントを軸にマーケティングを統合することが有効です。

また、複数の営業部や事業部があるということはその数だけ豊富な顧客データ(名刺、コンタクト履歴、購買履歴等)があるため、これらはABMを運用する上で徹底的に活用することができます。より組織的なアプローチが可能となるだけでなく、ビジネスチャンスの見逃しを防いだり、クロスセルの機会を見出したり、さらには予測分析の精度を向上させることにもつながります。

顧客とする企業・組織の意思決定が複数の担当者や部署によって決められている

ABMは、個人単位での点と点でのマーケティングを、アカウントを軸とすることで複数の担当者・担当部署に対する、面での戦略的なマーケティングを行うことが特徴です。こうしたABMの性質を踏まえると、顧客の意思決定が複雑である場合にこそABMはその力を発揮し、逆に意思決定者が少数の場合にはABM導入のメリットはそれほど大きくない、ということができます。

MAを導入済みであり、デマンドセンターが機能している

ABMを運用するために必要なのは、データマネジメント、コンテンツマネジメント、デマンドジェネレーションを担うデマンドセンターの存在です。これらは、実際にMAを導入し、運用している企業であれば既に備わっていると言えます。そのため、ABMの導入が可能になるのは、少なくともMAを導入し、個人単位ではあるもののデータが豊富に存在し、且つ活用ができること、それらのデータに基づいたコンテンツの最適化ができること、が必須条件になります。ABMはこのプロセスを、アカウントを軸に再構築するものだからです。

一般的には、上記の3条件を満たすのは、既にMAを活用したマーケティングを行なっている大規模なB2B企業、ということができると思います。

 

まだまだ日本での認知度が少ないABM。欧米でさえもその効果が出始めたばかりであり、日本における可能性は未知数です。これぞとばかりにMAや SFAといったマーケティングソリューションに飛びついたものの、使いこなすことができずに機能不全に陥っているケースもあると聞きますので、ABMも一部の関係者の間では二の舞を踏むのではないかと言われているもの事実です。

しかし、上記に記述した通り、ABM自身がこれまで日本企業が得意としていたマーケティング方法を補完する可能性が高いことにより、導入による効果を実感しやすく、既存のマーケティング・営業プロセスの中でうまく活用される場面が多いと期待されます。さらにABMの普及を後押しするように、労働生産性が声高に騒がれ始めていますので、 ABMが関係者の想像を超えるスピードで浸透するマーケティングソリューションとなることを期待しています。