ABMによるB2Bマーケティングの未来

FORCAS2017年7月13日

ABM(Account Based Marketing)は、これまで個人単位で扱ってきた見込み客を、ターゲットアカウント(ターゲットとする顧客企業)に紐づけて、ターゲットアカウントを軸にして戦略的・組織的なマーケティング施策を行っていくというものであり、これまでのB2Bマーケティングのあり方を大きく変える代替的な手法として注目が集まっています。

今回の記事では、ABMが従来のB2Bマーケティングとどのように異なり、どのように変革を起こしていくのかを見ていきたいと思います。

ABMの何が新しいのか

ABMは、概念としては新しいですが、実は優秀な営業が従来からやっていたことと大きな変わりはありません。しかしながら、これをB2B企業が会社単位で、マーケティングの段階でシステマティックに行うこと、さらに実践する上で必要になる膨大な量のデータマネジメントや複雑なコンテンツマネジメントを行うだけのITシステムが存在することが大きな違いです。つまり、デキる営業のノウハウを、システム化して、それを営業の前段階のマーケティング活動で全社をあげて実践できるようにするものがABMなのです。

従来のB2Bマーケティングと何が異なるのか

従来の手法との違いを説明する前に、まずは一般的なB2Bマーケティングのモデルである、マーケティングファネルをご紹介します。

セールスファネル
マーケティングファネル, MQL: Marketing Qualified Lead, SQL: Sales Qualified Lead

上の図のように、B2B企業のマーケティングと営業は、顧客の購買行動のステージに応じて、活動を変えていきます。まずは、イベントやWebでの資料ダウンロード等から、見込み客の個人情報を収集し(リードジェネレーション)、これらの見込み客に対して情報提供等を行い、検討に至った段階でMQL(Marketing Qualified Lead)として営業に引き渡します。営業部門は独自に創出する案件(SGL:Sales Generated Lead)と、MQLのうち営業部門として受け入れた案件であるSAL(Sales Accepted Lead)を合わせたSQL(Sales Qualified Lead)をフォローし、商談、購買へと繋げる努力を行います。このように、マーケティングファネルは、潜在的な顧客が商品を認知する段階から、購買を検討、実行する過程で絞り込まれていくのを漏斗(ファネル)になぞらえて名付けられました。

ここから従来のB2BマーケティングとABMの違いに入ります。

従来のB2BマーケティングとABMの違い

従来のB2Bマーケティング

従来のB2Bマーケティングでは、できるだけ多くのリード(個人)にリーチして、ナーチャリングを行い、ファネルの下へと導いていくというものです。このアプローチは、庭山氏の著書の中で、「あらゆる手をつくして、半ば無差別に集められた見込み客を、大きな網、あるいは罠を仕掛けてできるだけ多く捕まえていく、といった手法」と表現されています(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティン)』2016、日経BP社、68)。そのため、ある意味営業が想定していない見込み客もMQLとして渡されるので、MQLからSALになる率はどうしても低くなってしまいます。この方法はこの方法で、商品・サービスや顧客属性等によっては有効なマーケティングの手法ですが、大口の既存顧客が存在している場合等には、この後で説明するABMの方が効果的です。

ABM

ABMは、最初に営業の観点も入れる形でターゲットアカウントを決めます。その上でターゲットにする個人を洗い出します。そのため、従来型のB2Bマーケティングとは異なり、見込み客の段階で、かなりリードの数は絞り込まれており、洗い出しの段階で、従来では多くのリードの中に埋もれて見逃してしまいがちであった重要顧客をより確実にターゲットに据えることができます。また、これらの見込み客をアカウントごとにグループ分けし、さらに購買ステージに応じたコンテンツマネジメントを行うため、庭山氏の著書の中で、「大海原でイケスの中で銛で獲物を捕らえるように、大きな網で捕まえにいくというよりは、見込み客を戦略的に追い込んでいき、より早く、確実に捕えようとする方法」と表現されています(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティング)』2016、日経BP社、68-70)。この速さと確実性は、ABMでは営業の受け入れ率が高いこと、営業がしっかりフォローすることによる進捗率の上昇をもたらします。

ABMがB2Bマーケティングにもたらすもの

一般的に、大口の既存顧客は、より高い収益を生んでくれる可能性が高いとされますが、ABMを用いることで、既存顧客に対してより効果的なマーケティング活動を行うことが可能になります。また、未取引先に関しても、社内には思わぬコンタクト先が眠っていることが多く、ABMにおけるターゲットと定義し、戦略的・組織的にアプローチを行うことによって取引開始へと繋げる可能性が高まります。

また、日本のB2Bマーケティングが陥っている特異な事象を解決できる方法がABMの導入であると庭山氏が著書の中で指摘しています。昨今日本のB2B企業によるMA(Marketing Automation)の導入が進んできていますが、十分に活かしきれていないのが実情です。これは、MAの導入によってMQLが増えたものの、営業部門の受け入れ率が上がらないという背景があります。ABMを導入することで、これまで個人単位で実施されていたMAが、アカウントを軸にしたものへと生まれ変わります。また、入り口の見込み客が、そもそもターゲットとして定義した企業に属する個人に絞られるので、営業のフォロー率も高くなります。さらに、これまでのMAの運用で蓄積されてきたノウハウ・データはABM実践の上で非常に価値の高いものとなります。(庭山一郎『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベーストドマーケティング)』2016、日経BP社、38-42)

日本においてABM導入が期待される背景はこのためであり、日本企業によるABM導入が進むと、これまで効果的に運用できていなかったMAを最大限に活用することができ、グローバルで遅れをとっていた日本のB2Bマーケティングが大きく進歩するきっかけになると言われています。